本格派(風)サスペンス←ほんまか?!
『ちゃ楽殺人事件』(後編)

 プルルルルル…
 滅多にならないあたしのPHSが鳴る。
 何日ぶりだろう?必要ないやん?ってみんなに笑われながらも意地で買ったPHS。
 驚きながらも、おそるおそる通話ボタンを押す。
「はい」
「さらら?」
 …ふに??
 前にメールでPHS番号教えたんだ。数人に教えたのに、実際かけてくれたのはふにとたんぽぽだけだった。
「夜中にごめん」
「別にいいけど…どうしたの?」
 夜中…あぁ、もう2時回ってる。
 いろいろ考え事してたら、こんな時間になってしまった。
「さららのことだから、危ないことする気じゃないかと思って」
 どきっ!
 …見抜かれてしまったか。
 捜し物の手を止める。
 目の前のパソコン画面には、今までたんぽぽに送ったメールの本文。
「…なんのことかなぁ?わっからんなぁ??」
「やっぱりな。お前、死神捕まえる気だろう?」
 当り前やん!!
 ここまで挑発されて、黙ってられるわけないやん!
「相手はもう人1人殺してるんだぞ?どんなやつかもわからないのに。危ないからやめとけ」
「って言われて引き下がると思う?」
「…思わないから、電話したんだよ」
 ……またまた、見抜かれてる。
「今なにしてる?」
「何だと思う?」
「たんぽぽに送ったメールの内容から、次に死神が現われそうな公園のリストアップ」
 当たり!!
 さすがふに!
「死神はこっちの地理に詳しくないわけだから、公園って言っても住宅街の中の小さな児童公園はわからない。となると場所は特定できるはず」
「で、その結果は?」
「駅前の□□公園か、国道沿いの◇◇公園」
「どっちに出ると思う?」
「◇◇公園。あの公園は、行き方からなにからたんぽぽに教えたことがある」
 ◇◇公園。
 綺麗に石畳が敷かれて、噴水があって、ベンチや街灯もおしゃれな感じ。
 以前たんぽぽに「うちに来ることがあったら、◇◇公園に行こうね」って、メールに公園の写真を付けて送った。
 たんぽぽはその3段になった、ウエディングケーキのような噴水をいたく気に入った様子だった。
 もし、死神がたんぽぽのメールに全て目を通していたら、あたしのこのPHSもばれてるわけだ。
 こいつは置いていこう。
 もしもの時に連絡できないのは痛いけど、返ってそのほうがいいかもしれない。
「いいか、絶対に一人で行くな」
 じゃあ誰と行くの?殺人犯を暴きに行くって言って着いてくるやつはおらんやろ?
 誰も巻き込みたくない。
 一人で行くのは怖いけど、死神が挑戦して来るのはあたし一人だから。
 もちろんいろいろ準備はしていくつもりだけど。
 プロレスラーみたいな大男なら、太刀打ちできないかもしれない。
 スパイものの映画みたいにいろいろ罠を仕掛けられていたら、すぐに負けるかもしれない。
 銃刀法違反の武器類を持っていたら、生身のあたしが適うはずもない。
 でも、どうしても負けられない。
「さらら、ベル持ってたな?」
 うん。持ってるよ。
「死神がちゃ楽に顔出したらベルで知らせるから。死神がちゃ楽に現われるのは、恐らく死体を並べた直後のはずだから」
 死体発見時刻と、死神がちゃ楽に出現する時間…
 あたし、死神の行動について少し考えてみた。
 これはあたしの勝手な解釈だけど、死神はもしかしたら、死体を並べる直前にちゃ楽にメッセージを残してるんじゃないかな?
 誰かに発見してもらいたいんじゃないかな?
 それが自分の犯行を見られたいっていう快楽殺人的な発想なのか、自分のした恐ろしい行為を叱ってもらいたいっていう甘えなのかはわからない。
 でもきっと、死神は見られたいんだと思う。
 誰か…ふにかうさ子かぼぉるか、恐らくあたしか。
 正気じゃないことは確かだろう。
 でも、何もわからないうちにあたしに危害を加えることはないんじゃないかな?
 これはあくまでも仮説でしかないけれど。
「ありがとう。ベルお願い。じゃ、あたし準備するから」
 ぶち
 一方的に電話を切って、ついでに電源も切ってしまう。
 あぁ、ベル番号メールしとかなきゃ。
 たんぽぽへのメール画面を閉じて、回線を開く。
 メールが1つ、来ている。

『ササヤカナ贈リ物ヲオ受ケ取リクダサイ
 今夜9時30分オ待チ申シ上ゲテオリマス
 死神』

 今夜9時30分!!
 あと、2時間じゃない!!!
 急いで用意しなきゃ。
 どの服を着よう?
 やっぱりお化粧もしたほうがいいよなぁ。
 今からシャワー浴びて間に合うかな?
 ふににベル番号だけメールして、さっさとパソコンを寝かしつける。
 さぁ、決戦の時は来た!
 一番お気に入りの服を着て、綺麗にお化粧をして、殴り込んでやろう!

 すっかりおでかけの用意が整った9時ジャスト。
 ここから公園までは5分あれば十分。
 遅刻して行ったらまずいから…10分ぐらいならちゃ楽できるな。
 とりあえず起動。
 「さらら:こんばんは」
 「うさ子:さらら!ふにから聞いたけど、本当に行く気じゃないでしょうね?」
 「さらら:もう準備できてるよ。行く前にちょっと挨拶しようと思って」
 「みっしゃん:あほか!殺されに行く気か?!」
 「うさ子:相手はストーカーなのよ」
 ストーカー…
 でも、それは仮説にすぎないじゃない?
 それを認めたら、被害者がたんぽぽだって認めたことになる。
 まだ、被害者の身元も、犯人が誰かもわかってないんだから。
 「さらら:死神からメールが来てた。9時半に待ってるって」
 「ふに:お前なぁ!!電源切っただろう!!!」
 あ、ふに怒ってる。
 「さらら:ごめん。怒ってる?>ふに」
 「ふに:当り前だ!!」
 「かなりー:一人で行く気じゃないでしょうね?」
 「さらら:内緒。>かなりー」
 「うさ子:私には行くなって言ったくせに!」
 …そんなこと、言ったような気もするなぁ。
 でも、今は状況が変わったんだから。
 あたしの次は、何処に行くつもりだったんだろう?
 あたしが最後じゃないのかな?
 あたしの次の予定があったとしても、今夜で最後にしてやる!
 「さらら:あたしの予想が当たるとは限らないじゃない?」
 「みっしゃん:俺も行く!!」
 みっしゃん…大阪でも南と北じゃない。
 今から出ても1時間半はかかるんじゃないの?
 「さらら:どうやって?どこでもドアなかったら間に合わんやろ?>みっしゃん」
 でも、ストーカーか…
 そのことすっかり忘れてた。
 ストーカーか…プロファイリングか何かじゃなきゃ行動読めないんじゃないの?
 これはまずいかもしれないなぁ。
 ただでさえ、異常な犯罪なのに。
 でも、死神は名指しであたしに挑戦してきた。
 気分はもう、名探偵!
 誰もあたしを止められない。
 ノリのよさと、思い込みの激しさには自信がある。
 かかってこいや、死神!!
 ちゃ楽をやめて、あたしは家をでる。
 母親にはなるべく早く帰るって言って。

 うちの家から自転車で5分南に向かって走ると、国道沿いに緑の生い茂った公園が見える。
 ◇◇公園。
 2年前に新しく作られた市民憩の公園、だそうだ。
 緑地まではいかないけれど、公園としてのサイズは大きい方。
 案外夜遅くまで、人が出入りしたりしてるんだけど。
 さて、死神は一体どう出てくるのかな?
 誰にも会わず、誰にも怪しまれずに公園に出入りすることができるかな?
 入ってすぐの自転車置き場、グラウンド、遊具のある子供広場、遊歩道…
 どんどん奥に入っていく。
 歩道脇のベンチに数人のカップル。
 ランニングをしている人と4組擦れ違う。
 本当に、ここなんだろうか?
 放射線状に続く歩道。行き着く先は噴水広場。
 この時間はさすがに噴水は止められているだろうけど、あんなところに、死神は来るんだろうか?
 やっぱり、この公園じゃないのかもしれない。
 前方がぽっと明るく輝いている。
 噴水広場。
 途端にポケットに入れたベルがぶるぶるとふるえ出す。
『シニガミシュツゲン!』
 ふにだ!!
 死神が、現われた??
 どうしよう、やっぱりあたし間違えたのかもしれない。
 ぎゅっとベルを握りしめる。
 と、また、ベルは勢いよくふるえ出す。
『◇◇コウエン!!』
 …この公園!!
 でも、だとしたら一体何処に…
 あたしは走って噴水広場に向かう。
 広場に入ろうと階段に差し掛かった途端、目に入る女神像。
 噴水を見下ろすように立っている女神の銅像。
 …まさか、この女神像……
 たんぽぽに、この女神像の写真も送った。
 この下なら、ちょうど植物で死角になってるはず…
 そっと、女神像に近付く。
 黒い影が、さっと揺れる。
 影はこっちを振り替えって、にっこりと微笑んだ。
 それは、死神のようなマントを被った女だった。
「あなたならきっと、発見してくれると思ってたわ」
 これが、死神?
 死神は…女!?
 身動きひとつできない。
 恐ろしさと、驚きでめまいがする。
「さらら、さんよね?さぁ、こっちにいらっしゃいな。あなたにプレゼントがあるのよ」
 死神はわらって、足元に置いてある風呂敷包みをほどく。
 黄色い花模様の風呂敷に包まれていたのは、作り物じみた変色した肉のかたまりだった。
 おそらく、左足…
 生命をまるで感じない、切断された肉片。
 それは返って現実感がなく、想像していたほどの恐怖は感じられなかった。
 それよりも、死体の一部を目の前にして、何の感情も沸き上がってこないあたし自身にショックを受ける。
「いらないの。形見分けよ。足も手もいらない。あなたたちにあげるわ」
「…それは」
「そうよぉ、たんぽぽよ。たんぽぽの醜いところ。いらないけど、捨ててしまうのはもったいないでしょう?」
「…どうして」
「私の家は建築屋なの。道具には不自由しなかったわ」
 もういちどはっきりと死神の顔を見て、ようやく思い出す。
 何処かで見た事のある顔だと思ってた…
 たんぽぽが送ってくれた写真に一緒に写ってた友達だ!!
「そんなこと聞いてんちゃうねん!なんで、たんぽぽを…!!」
「あらぁ、興味持ってくれたの?うれしいわ。…あぁ、これいい加減切らなくちゃ」
 死神の足元にはノートパソコンが置いてある。携帯電話と接続された…その画面は、ちゃ楽!!
 死神はこうやってちゃ楽に…
「さぁ、これでいいわ。何処から話しましょうか?」
 何事もないように、地面に座り込んでたばこをとりだす死神。
 そこに切断された死体の左足があることなんて全然目に入ってないみたい。
「彼女とわたしはねぇ、彼女が東京に出てきた時から友達だったのよ。お互いの家によく泊まりにも行ったし、お互いのことを何だって知っていたわ」
 うっとりと幸せそうに目を閉じてしゃべる死神。
 ひとつ深呼吸。
 途端に死神の顔つきが変わる。
「でも年末ごろから彼女の様子が変わったのよ。2年もずっと一緒だったのに、隠し事なんてひとつもなかったのに、急に冷たくなったのよ。
どうしてだと思う?
好きな男ができたって言うじゃない?!男よ!!
男なんて何処がいいの?男なんかにこの私が劣っているとでもいうの?
それからよ。彼女は口を開けばあの男の話しをしたわ。この私がとなりにいるって言うのに!!私がこんなに愛しているのに!!!」
 どん!
 拳を思い切り地面にたたきつける。
 正気とは思えない死神の表情。
 恐ろしさよりも、哀しさを感じる。
 激しすぎる感情について来れなかった理性。自分のしたことの恐ろしさに全く気付いていないらしい。
 視線がさまよう。
 あたしがここにいることも見えてないみたい。
「私は彼女が欲しかった。彼女を何処にも行かせたくなかった。邪魔だったのよ。足が。
私に抵抗する腕が。私を罵る言葉が!!」
「だから、殺したの?」
「殺した?彼女はいるわよ。彼女の部屋に。彼女が私の家に鍵を忘れたことがあったの。そのときにこっそり合鍵を作っておいたわ。
私の彼女は今は私になんの反抗もしないのよ。素敵でしょう?
だから、許してあげることにしたの。わけてあげることにしたの。
パソコンのことは私が彼女に教えてあげたの。それで友達ができたっていうじゃない?
どんな子か気になったわ。
あなたから来た写真、とても喜んでいたわ。私も見せてもらった。
他の人達はともかく、あなただけは来てくれると思っていたのよ」
 たばこを消して死神は立ち上がる。
「あげるわ。綺麗でしょう?あなたには綺麗なままの足をあげる。お礼よ」
「…冗談じゃない!なんであたしがたんぽぽの足なんか!!!」
 哀しい人だ。だけど、許せない!
 たんぽぽを愛しているぅ?!ふざけるんじゃない!そんなものが愛なわけがない!!
「あんたが愛してたんは、たんぽぽじゃない!なんで、たんぽぽを殺したりなんかできんの?!あんたは、あんたのことを愛してるだけやんか!」
 目を見開いてあたしをにらみつける死神。
 狂気の表情。
 殺人者の表情!
「お前だけはわかってくれると思ってたのに!私を裏切るのね?!そうやって、私に逆らう気なのね?
もう2度と私に逆らえないようにしてあげる。その顔とその身体と、たんぽぽと並べると素敵だわ!私の愛しいお人形!!」
 言って飛びかかって来た死神の手には、いつのまにかナイフが握られていた。
 わ!!
 あたしはいそいで、ポケットを探って、持ってきた缶を振る。
 何とか死神をかわして、キャップを投げ捨てる。
「逃げるの?この私から、逃げられると思ってるの?」
 体勢を整えた死神がまた飛びかかってくる。
 あたしは勢いよく、ボタンを押して死神の顔に向けてスプレーの中味をぶっかける。
 ヘアムース。スーパーハード。たまに誤って目に入ることがあるけど、これはかなり痛いぞ!
「きゃあ!!」
 死神は目を押さえて座り込む。
「動くな!!」
 途端に辺りが明るくなる。
 …警察だぁ。
 誰かが警察に通報してくれたんだぁ。
 力が抜けて、その場にしゃがみこむ。
 警察官が数人、死神を取り押さえる。
「大丈夫ですか?」
 肩を叩かれた警察官にうなずいて、あたしは他人事のように連れ去られていく死神を見る。
 …事件は解決した……

 捜査の結果たんぽぽの部屋のベッドの上に、たんぽぽの両手両足のない死体が綺麗に寝かされていたそうだ。
 たんぽぽの死体は死後1週間ほど経っていた。
 死神は毎日合鍵でたんぽぽの部屋に入り、メールを読み、そして予告状のようなメールを送っていたそうだ。
 たんぽぽの部屋に残されていた、彼氏の面影の残るものは全て鋭利な刃物で切り裂かれていたそうだ。
 そして、死神の部屋の壁には一面たんぽぽの写真が貼りつけられていて、日記にもたんぽぽのことだけが書かれていた。
 これも、一種の愛情表現なんだろうか?
 あたしは認めたくない。
 でも、あまりにも愛しすぎて正気ではなくなってしまったなんて…
 それとも、死神は最初からたんぽぽを愛してはいなかったんだろうか?
 本当は誰でもよかったんじゃないかな、と思う。
 たんぽぽは運悪くその犠牲になっただけで、たんぽぽの身代わりになる可能性は誰にでもあったんじゃないか…
 あの日、警察に通報してくれたのはみっしゃんだった。
 ちゃ楽のメンバーもとても心配してくれていたみたいで…
 家について、さっそくちゃ楽メンバーに事件の結果を報告して、心配かけたことを謝った。
 これで一軒落着。
 またこれからも、変化のない平坦な毎日がくりかえされるんだろう。
 でも、それでも今回の事件のことは忘れないでいようと思う。
 死神という、愛情に飢えた哀しい女がいたことを…

<FIN>


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