本格派(風)サスペンス←ほんまか?!
『ちゃ楽殺人事件』(前編)
残業になりはしたけど今日の仕事は片付けてきた。
空きまくってぐーぐー文句ばかりのお腹にも食料を与えた。
これといって予定のない夜9時過ぎ。お風呂に入るのにも少し早い気がする。
となると残るは、ちゃ楽。
なんだかんだと言って、結局はまってしまっている。
さらら23歳。大阪在住のOL。
勢いで買ったパソコンで、流行りのインターネットとやらに手を出し、挙句の果てがこの始末。
友達に教えてもらった『ちゃ楽』なるものにはまってしまった。
両親プラス妹と同居の身の上には恐ろしくもある電話代と戦いつつ日々顔も名前も知らない相手との会話を楽しんでいる。
ちょっとだけ、顔を出すつもりが気が付けば1時間2時間…
いつのまにか、ちゃ楽での友達もできていた。
気が付けば、常連の仲間入りをしていた。
気を使うばかりで疲れるだけの人間関係とは違って、こちらの気が向いたときだけ仲間に入れる。
それはとてもありがたいものだったから。
さぁ、今日も遊びに行こう!
今夜は誰が来てるかな?
あぁ、メールチェックもしなきゃ。
鼻歌なんか歌いつつ、パソコンを起こす。
「さらら:こんばんは」
画面に写る文字。
それはただの文章だっていうのに、まるで声として耳に届いた気になってしまう。
画面で会話しているのではなくて、実際に会って会話しているような錯覚。
その錯覚が好き。
とても親しげで、でもわずらわしくない関係が成り立っていて。
「ふに:こんばんは」
「うさ子:お久しぶり」
「ぼぉる:やぁ>さらら」
あぁ、いつものメンバーだ。
少し安心。
たまに知らない人ばかりで、中に溶け込みにくい雰囲気の時があるから。
いつものメンバーの世間話し。他愛ない会話。
疲れた心に、いい感じ。
くだらない世間話しが一通り終わった頃、うさ子からの急な質問。
「うさ子:最近たんぽぽ見かけた?」
「ふに:そういえば最近来ないね」
たんぽぽ……
ちゃ楽にはまって、一番最初にできた友達。
何度かメールもやりとりしている。
確か、東京の大学に行ってる20歳の女の子で、最近彼氏と別れたとかなんとかメールが来てた気がする。
でも、そういえば返事が返って来てないなぁ。
いつも2日もあれば必ず律儀にも返事をくれてたのに。
彼氏と別れて余程ショックだったのかな?
「うさ子:メール書いても返事来ないの」
「さらら:あたしも返事来てない。大丈夫かな?」
「ぼぉる:あのたんぽぽが返事書かないなんてめずらしい…」
「死神:一輪ノ野ノ花ガ散ッタ」
死神…??
いきなり入ってきた言葉に少し驚く。
はじめて見る名前だった。
たんぽぽのことを考えて、少しぼぉっとしている間に入ってきた文字。
「さらら:はじめまして>死神」
なんだか嫌なものを感じながらも、キーボードをたたく。
確かに、人数が一人増えてる。
死神なんて、気味の悪いハンドル名。
確かに個人の趣味かもしれないけど、もうちょっとなんとかならなかったの?
でも、気持ち悪いから、なるべくそのことには触れないようにしよう。
「死神:花弁ノ一部、東京都××区ノ△△公園ニテ公開中」
…なんなのぉ、それ??
なんか、嫌だなぁ。この人気持ち悪い。
言葉も漢字とカタカナだし…
「お姉ちゃん!」
わぁっ!
いきなり部屋のドアが開いて妹が顔を出す。
「電話使いたいねんけど」
…仕方ないなぁ。
これだから家族同居での電話回線ひとりじめは肩身が狭くて…
「ちょっと待って、今終わるから」
「さらら:ごめんなさい。妹が電話使うから、落ちます」
あ〜あ、ろくに会話もしてなかったのに…
まぁいいわ。夜中にまた来たらいいことだし。
そろそろお風呂にでも入りましょうか。
10時過ぎ。お風呂タイム。
妹に電話が空いたことを伝えて階下に降りる。
そして、あたしがその事件について知ったのは、翌日早朝のテレビニュースだった。
『東京都××区△△公園にて、ばらばらにされた死体の一部が発見された』
『ちゃ楽殺人事件2』
その日の夜、ちゃ楽を覗いてみると、案の定その話題で持ち切りだった。
その話題…死神と例のばらばら殺人。
「みっしゃん:一体何者なんや?その死神は」
「かなりー:まさか、犯人が犯行声明送ってきた、とか?」
…あれって、犯行声明っていうのか??
なんとなく、一歩引いて見てしまう。
関わりたくないっていうのもあるかもしれない。
それが事実なら知りたいとは思う。でも、実際のところ、怖い。
わかってる。あたしは死神がどんな奴なのか全く知らない。
死神もあたしの事は何も知らないはずなんだけど…
何処かで、見張られている気がする。
会話に入って騒ぎたい。でも、何処かで会話をチェックされていたら…
かと言って、一人で考えこむのはもっと怖い。
状況をよく見ておかなければ。
大丈夫。事件は東京だし、被害者は身元すらわかってない。
あたしは運悪くそこにいただけなんだから…
でも…
「3月:そのひとが犯人なの?」
びくっ!
やめて!!!
3月の文字が心臓に突き刺さる。
わかってる。発見される前にメッセージを送ってきた死神。ただの偶然のわけがない。
でも、それを認めると、あたしたちは…間接的に事件に関わったことにならない?
それが、一番怖い。
誰かに見られているような…ノイローゼになりそう。気持ちが落ち着かない。
「ふに:さららきてる?」
あ、ふにだ。
ほんの少し安心。
「さらら:いるよ〜」
「ふに:話があるから、カトレア来て」
カトレア…2人部屋??
珍しい…ふにも怖いのかな?
あぁ、そうか。事件があったのは、ふにの家の近所の公園だった…
怖いだろうな、あたしなんかより。
いつもの大部屋から、2人部屋に移る。
「さらら:大丈夫?」
「ふに:誰にも言わないって約束できる?」
…どうしたの?一体何を……
「さらら:約束する。どうしたの?」
「ふに:昨日の夜。メールが来てた。今読んだ」
「さらら:誰から??」
「ふに:死神」
凍り付く…!!
指が、心が、身体が、感情が、顔が…凍り付く。それほどのショック!
なんで?!なんで、ふにに死神からメールが…
なんで死神がふにのアドレスを…
戦慄が走る。
やっぱり、死神はあたしたちを知っている…
死神はあたしたちを、見張っているのかもしれない!!
「さらら:どうして…」
「ふに:しかも、発送元のアドレスが、たんぽぽのアドレス」
たんぽぽが…死神?!
まさか…たんぽぽが犯人??
被害者は、まさか別れたって言う、元彼氏…??
まさか、そんなこと…
だいたい、たんぽぽが死神だったとしたら、なんでわざわざちゃ楽に顔出したり、メール書いたり足のつくことするの?
でも、だったらどうして…
たんぽぽのアドレスを無断で使用してる…?
でも、そんなことできるの??
「ふに:ササヤカナ贈リ物ヲオ受ケ取リクダサイ」
「さらら:…メールの内容?」
「ふに:そう」
ささやかな贈り物…それってまさか……!!
「さらら:どうして?」
「ふに:俺の方が聞きたい!」
あぁ、そりゃそうよね…
「さらら:ごめん。でも、心当たりないの?」
「ふに:ない!恨まれる覚えもない」
『一体死神って…』
!!!
書きかけた文章をそのままにして画面に見入る。それほどにショックな内容を、ふには書いてきた。
…うそでしょう??
画面に写し出される文字。
「ふに:死神が大部屋に来た!!」
「死神:花弁ノ一部、静岡県××市ノ△△公園ニテ公開中」
急いで戻った大部屋に残されたメッセージ。
静岡県××市…うさ子の住んでる街だ!!
「みっしゃん:待てこら!逃げるな死神!!」
「茜:××市って?」
「うさ子:私たちに、挑戦してるわけ?>死神」
「ふに:うさ子、メールチェックしろ!すぐに!!」
嘘でしょう?!なんで、こんなことできるの?
楽しんでるとしか思えない。
異常だ。狂ってる。正気の沙汰とは思えない。
「さらら:うさ子、その公園近い?」
「うさ子:離れてる。車で5分ぐらいかな?」
「さらら:絶対行ったらあかんで!!死神おったら…」
殺されるかもしれへん。
さすがにその言葉は出せなかった。
「うさ子:わかってる>さらら」
「みっしゃん:ほんまにおるとは思えへんかった」
「かなりー:ねぇ、警察に電話したほうがよくない?」
「茜:信じてくれるかなぁ?>警察」
「うさ子:メール見てくるね〜」
本当に、その公園には今夜も、ばらばら死体が置かれているんだろうか?
もし本当にあったとしたら…
でも、どうしてわざわざ静岡に??
昨日は東京だった。
わざわざ死体を持って静岡に行った?
それとも、現地調達した??
…やめよう。まだそこに死体があるとは限らない。
ちゃ楽も今夜はこの辺にしておこう。
ずっと死神に、会話を盗み見られている気がするから。
翌日、やはり死体は出てきた。
死神の予告通り、公園に腕と足の一部が並べられていたそうだ。
その死体は前日の東京で発見された死体と同一人物で、16歳から30歳までの女性らしい。
やはり、まだ身元はわからない。
でも、おそらく犯人である死神が死体を持って東京から静岡に行ったことだけは確かなようだ。
一体死神は何者なんだろう?
なんの目的があって、死体を静岡に運んだんだろう?
『ちゃ楽殺人事件3』
異常に疲れた。昨晩眠れなかったせいもあるだろう。
会社でも落ち着かずにミスばかり。ついでに居眠りまでしてしまった。
きっと、暗い顔してるんだろうな。でも、あんなこと会社の友達に話せないし…
見たくないという思いもあるのに、気が付けばいつもと同じパソコンの前に座っている。
…なにもちゃ楽する必要はないんだから。メールチェックだけして眠ろう。
まだ早いけど、夜中起きてるのは怖い。
条件反射的にメールチェック。
受信メールは1つだけ。昨晩遅くに送られている。
…うさ子からだ!!
『ふにに言われてメールチェックしたら、死神からメールが来てた!
しかも、たんぽぽのアドレスなのに、死神の名前で来てるの』
昨日2人部屋でふにから聞いた内容と同じことの書かれたメール。
やっぱり、死神はわざとうさ子の住む街まで死体の一部を運んだんだ。
丸一人分の死体を運べば目立つかもしれない。でも一部だけを運べば、案外わからないかもしれない。
死神は、うさ子が静岡のどの街に住んでいるかは知っていたけれど、詳しい場所はわからなかったんだ。
だから、うさ子の住む地区から離れた公園に…
メールが来たんだから、うさ子がターゲットだったことは間違いないだろう。
うさ子からのメールの内容はそれだけに留まらなかった。
『たんぽぽはこのところストーカーにつきまとわれてたみたいなの。彼氏と別れた原因もどうやらそのことらしいし。
結構悩んでたみたいで、私にだけ、メールで相談してくれてたの』
たんぽぽが、ストーカーにつきまとわれてた!?
あたし、何も知らなかった。
たんぽぽから来るメールはいつも彼氏のことばかりで、とても幸せそうだったのに…
確かにうさ子は信用できる人だ。
31歳主婦。2児の母。
なにか相談を持ちかけると冷静に意見を返してくれる。
たんぽぽもうさ子の事を信頼して、相談したんだろう…
…それなのに、あたしはたんぽぽが悩んでるなんて思いもしないで……
『何ともなければいいんだけど』
うさ子のメールはそう締めくくられていた。
…負けてたまるか!!
死神なんていう何者かもわからんやつに振り回されてたまるか!!
絶対に死神をとっ捕まえてやる!!
それが、たとえたんぽぽの犯行だったとしても。
あたしはただ、真実が知りたいだけ。
何者かもわからない死神の影に怯えるなんて嫌。
とっ捕まえて、警察に突き出してやる!!!
よし、そうと決まればびくびく怯える必要はない。ちゃ楽に乗り込んで、死神を待ちかまえてやる!!!
その日も死神は現われた。
今度のターゲットはぼぉる。
ぼぉるの住む、名古屋市××区の公園で例の死体と同じ人物の腕と足の残り。
これで、両手右足がそろった。
後は頭、胴体、左足…
少なくとも、あと3つ。
前の2件では何の情報も得られなかったけれど、今回の事件では犯人らしい不信な人物が目撃されている。
それはあまりにもふざけた人物だった。
季節はずれにも、黒いマントを頭からすっぽりとかぶった人。
体型も性別も年齢も断定できない。
本当に自分は死神だとでも思っているんだろうか?
死神ごっこをするのに、人間一人殺しているって自覚があるんだろうか?
そいつは一体、何を考えているんだろう??
目撃者が現われたにもかかわらず、犯人の手がかりはまったくつかめなかった。
ふに、うさ子、ぼぉるの3人を結ぶもの。
ちゃ楽。
3人共面識はない。本名も知らない。ただ、ちゃ楽を通して会話しているだけ。
でも、ちゃ楽の常連は彼等だけではない。
考えられる可能性のひとつ。
たんぽぽのメールアドレスから死神のメールが送られてくることを考えると浮かび上がる可能性。
3人は、たんぽぽとメールのやり取りをしていた。
初めてたんぽぽがちゃ楽に顔を出した日、別室でメールアドレスの交換をした。
その時のメンバーはたんぽぽ、ふに、うさ子、ぼぉる。そして、あたし。
東京、静岡、名古屋…
どんどんあたしに近付いてくる。
残っているのは、あたし。
明日死神は大阪に来る……??
<つづく>
ちゃ楽殺人事件(後編)へ
作品解説と言う名の言い訳へ
小説の楽園へ
楽園入り口へ