最後の夢
どの服を着ようかな?
口紅はこのオレンジよりこっちのピンクの方がいい?そう、彼がこっちの方が似合うって言ってくれたから、ピンクにしよう!
じゃあ、このワンピース?だめだめ、それは先々週着たじゃない!
久しぶりに彼に会うんだから、一番綺麗に見せたいの。足の先から髪の先まで、靴やバッグの埃にまで注意して、鏡の前で何度も笑顔を作ってみる。
そんな時いつも思う。どうしてもっと綺麗に生まれてこなかったんだろう?って。
神様がせっかくくれた一度きりのチャンスなんだから、大切にしなきゃ。一分一秒だって無駄にしないように。そして、絶対に彼を取り戻して見せるわ!
彼が私に「嘘つきは嫌いだ」って言葉を残して去って行ったのは5日前。それまで4ヶ月の間、私達はとても仲がよかった。誰もがうらやむようなカップルだったはず。ただ、彼の仕事が忙しくてなかなか2人で長い間一緒にいることはできなかったけれど、彼は毎日電話をくれた。
このまま私達の幸せは続くものだと信じていたのに、悲しみは案外早くやってきた。
彼は言った。「お前が男だと知っていたらつきあったりなんかしなかった」と。
私はどう言うわけか男として生まれた。そして、男の子として育てられた。物心ついた時からどうも何か違和感を感じてはいたのだけれど、それとはっきり意識するようになったのは小学校の高学年になってから。
私は生まれる時に間違って男に生まれてしまったけれど、本当は女なんだって。心は女の子のままなんだって。でも、もう生まれ直すわけには行かなかった。
私がちゃんと身も心も女の子なら、妹やクラスの女の子が着ているような、フリルやレースがたくさんついたかわいいワンピースやピンクのリボンなんか着けたって怒られもしないんだろうな、って思うと悲しくなって、何度も部屋の隅で泣いたりした。
何度恋をしても気持ち悪がられたり、本気に取られなかったり。それもこれも私が男の子みたいな格好をしてるせいだと気付いて、私本来の、女の子の服を着てみた。
親は怒って、家から追い出されちゃったけど、かえって清々したわ。これで誰も私に男装を強いる人がいなくなったんですもの。
そんな、私本来の姿になってから2年経ったある日、私は彼と出合い、恋に堕ちたのだった。
理不尽な、自分の身体の間違いって言う理由で彼を失ってしまった私はこの5日間ずっと泣き続けていた。
数分間泣いて、少し落ち着いて眠って、目が冷めたらまた彼を想って泣いて……食べ物がのどを通らなくて水ばかり飲んでいた。飲んだ水が全て涙になって出てきているのかと思うほど、延々と私は泣きつづけた。
そして昨日、私は神様に出会った。神様は私の夢まくらに立たれてこう言われた。
「不憫なお前に一度だけチャンスを与えよう。夢の中でもう一度彼と逢わせてやろう。そこからはお前の思う通りに夢をすすめればいい。その夢の通りに現実を変えてやろう」
「ねぇ、まだ私のこと愛してる?私はこんな身体だけれど、心は女なのよ。あなただけを見つめているの。お願い……もう一度やり直しましょう!」
言えた!
現実じゃあ、決して言葉にできなかったのに、夢の中じゃあこんなに簡単なことだなんて!これできっと彼も、私の気持ちを分かってくれるはずよ!
「目を閉じて」
彼はやさしく囁く。私はそれに従って、軽く目を閉じる。
その瞬間、私のお腹にものすごいショック!!
目を開けた私の目に飛び込んできたのは、鬼のような形相の彼と、私のお腹に深々と刺さっているナイフ。
「うそ……でしょう??」
薄れて行く意識の中で、彼の満足そうな表情だけが鮮烈に頭の中に残っていた。
「はい、おニューの魂一丁上がり!これだから、死に神稼業はやめられないねぇ?」
「ほーら、あたしの言った通りだっただろ?失恋したての魂狙えって。失恋したての奴って、心の奥底では死にたがってるから手っ取り早く魂収集できるんだから」
2人の死に神はあるオカマの死体の側で仕事の成功をよろこんでいた。
<FIN>
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